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068 それぞれの思い

last update Huling Na-update: 2025-07-21 17:00:19

 深夜。

 目が覚めたあおいが時計を見ると、3時を少しまわっていた。

 布団に入ったのは23時過ぎだったが、中々寝付けなかった。何度も何度も寝返りをうち、その度に時計を見ていた。

 最後に時計を見た時は1時をまわっていたので、まだ2時間ほどしか眠れていない。

 あおいの脳裏には、あおい荘のスタッフや入居者、一人一人の顔が浮かんでは消えていた。

「……」

 起き上がりカーテンを開けると、雨が降っていた。夜のニュースでは、台風が近付いているとのことだった。

 昼過ぎ、栄太郎と文江が記念写真を撮っていた時にはあんなに晴れていたのに、それからしばらくして、空一面を分厚い雲が支配していったのだった。

 ――まるで今のあおい荘の様だ。

 そう思い、あおいは小さくため息をついた。

 このあおい荘に来てから、毎日が本当に楽しい。家にいた時に感じられなかった、自らの足で歩き、自らの意思で生きている、そんな実感が確かにあった。

 入居者もスタッフも、自分のことを本当に可愛がってくれる。

 自分のことを温かく見守ってくれて、自分がここにいることを肯定してくれる。

 自分を認めてくれる。

 ここに来てから、本当に色んなことがあった。

 自分の人生は家が全て決める。そんな現実から解放され、自分の意思で、ヘルパーになることを志した。

 初めて会った時、入居者6人の顔と名前を覚えるだけでも大変だった。しかし毎日触れ合っていく中で、各々の個性を知り、それぞれの人生を知る出来事がたくさんあった。そしてその度に、距離が近付いていくことに喜びを感じた。

 たくさんの出来事、たくさんの事件。その度に悩み、どうすれば解決出来るのか、自分に何が出来るのかを考えた。そして自分の思考の先にはいつも、直希の存在があった。

 直希がいれば大丈夫。つぐみの口癖だった。いつも直希に厳しく当たるつぐみだが、彼女は誰よりも直希のことを信頼している。そして事実、これまでの騒動は直希がいたからこそ解決出来
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